創業者から

「四苦八苦」という言葉がありますが、お釈迦様は人の苦しみの由来を「生病老死」と喝破しました。医療はこのすべてを扱う仕事です。医療分野を志す高校生にその動機を尋ねると異口同音に「辛い経験をしている人の役に立ちたい」と答えます。確かにこれ以外の初心があるとも思えませんが、卒業して現場に出ると学んだ知識だけでは解決のできないさまざまな出来事に出逢います。

私自身も長い間「どうしたら目の前の患者さんの気持ちを理解できるのか」と思い悩んでいましたが、コーチングに出会って患者さんとの対話の可能性が開かれました。さらに医療チームを対象としたコーチングの有用性も明かでした。そのような経験からコーチングを医療界に紹介したいと活動を始めて20年以上が経過しましたが、出江先生、曽我さん、参加メンバーと創り上げた「患者中心のチーム医療実践リーダー育成研修」はその最も成功した事業の一つです。

これから研修に参加される皆様がそれぞれの「初心」を保ちながら飛躍されることをお手伝いできれば幸いです。


東海大学医学部血液・腫瘍内科客員教授

一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会理事

安藤潔


このたび日本摂食嚥下リハビリテーション学会の有志の会員によって本研修事業第6期がスタートする運びとなり、教育委員会担当理事として、尽力された皆様、支えて下さった関係者の方々に心からの感謝と敬意を捧げます。本事業は、2017年に製薬企業による教育助成事業に採択され、安藤潔先生、曽我香織PX研究会代表と半年かけてプログラムを作成、実施して参りました。第1期は月に1回、全12回を東京の会場で実施するというものでした。本事業の成果は当該助成団体から高く評価され、続く3年間の事業として再び採択され第2期から4期まで行われました。第2期からはオンライン形式となり、第1期と同じ内容を6回で実施し、オプションであった事例報告会を研修の一部とて年度末に行いました。その発表の多くが本学会学術大会の一般演題あるいはシンポジウム演題として公開されています。このように本事業の主眼は単に個人の知識や技術としてコーチングを学ぶのではなく、受講者がそれぞれの仕事現場における患者中心医療の課題をチームで解決するプロセスを体験することにあります。その体験をもった修了生有志(第2期以降はサポートメンバーとして研修に参加して下さっていました)が今度は教える側に回る形で研修事業の体制を構築して下さいました。この間の事情に少し触れますと、第5期は事業の自立化と普及を目指して受講料を徴収することとし、会員以外の参加も受け付けましたが、受講者数が限定的でした。そのため本事業の終了を考えましたが修了生有志の意志と目を見張る行動力によって本事業が継続されることになり感無量です。本研修事業が本学会の理念である多職種連携を具現化するものとして発展し、多くの会員の皆様が活用して下さることを強く願っています。

医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院 副院長

東北大学名誉教授

一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会理事

出江紳一


医療機関に15年ほどかかわるなかで、医療従事者の使命感や志の高さに尊敬の念を抱きつつ、国家資格を持った専門家集団が故の、垣根を超えたコミュニケーションの難しさや機会損失を実感してきました。フラットにお互いの視点を掛け合わせることができたら患者にとってより良い医療サービスを提供できますし、働きやすい職場にもなる。そんな思いから出江先生や安藤先生と立ち上げた研修会です。表面的な「スキル」ではなく、医療従事者としてのマインドがステージアップする研修会となることを期待しています。


株式会社スーペリア代表取締役社長

社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会代表理事

曽我香織



OB&OGから

【2期生 歯科医師より】

私は、歯科医師として日々の臨床を行う中で多職種連携に課題を持っていました。細分化された医療・介護体制(地域包括ケアシステム)の中で診療を行なっていると、果たして自分の治療が患者中心の医療に繋がっているのか疑問に感じていました。そこで多職種連携をしっかりと学習しようと思い、多職種連携を実践する人材育成事業「チーム医療実践リーダー育成研修」に参加しました。私がこの研修会受講した時は、申込時点では東京へ7回受講する前提でしたが、奇しくもコロナが猛威を振るう2020年でWEB開催に移行し、不安が多い中での受講でした。

研修会に参加して良かったことは、コミュニケーションについて経験学習を通し多職種の方々と体系的に学べたこと、そして「患者中心性とは何か」を、日々の臨床の中でコーチングの実践を通し学べたことです。我々専門職は専門家として教育を学び卒業しますが、コミュニケーションを学ぶ機会はほぼありません。フォードバックとリフレクション(省察)は生涯学習に大切だと思います。また多職種連携におけるコミュニケーションは必須項目ながら、教育に携わる方、実践する方も学ぶ機会がないまま実践されているのが現状だと思います。私は、この研修事業を通してコロナ禍で摂食障害を持つ患者さん・ご家族が葛藤の中で意思決定を支援する取り組みに携わることができ、自らの専門性が患者中心性に繋がっていることを学べたことは、歯科医師人生の中で大きな財産となりました。

同時に全国の方と新型コロナウイスの脅威を励まし、支えながらコロナ禍でともに学んだ経験は学ぶこと以上にかけがえのないものとなりました。摂食嚥下に関わる他職種の方々との対話を通し、それぞれが持つ考え方の違いなど、双方向に学ぶことができ、日本摂食

嚥下リハビリテーション学会という場で、本研修事業を行う意義は非常に大きいと感じております。

しかし、研修事業はこれまでの助成金が打ち切られ、完全な自走化が求められてきました。6期からは有志の修了生が対話を行い、アイディアを持ち寄り、これまでの成果を統合する形で第6期研修事業を取りまとめております。この6期からの研修会の姿こそこれまでの研修事業の成果だと思います。まだまだ改善点多く、持続可能な研修事業となるべく日々チームで取り組んでおります。

本研修事業において皆様の対話を通した交流が「ともに学ぶ」という多職種連携教育(IPE: Interprofessional education)の基本理念に基づく機会創出[多職種連携のプラットフォーム]となり、摂食嚥下リハビリテーション領域の研究・教育・臨床がさらに発展し患者さんやご家族に届けられることを切に願っております。

Updated on 20th Aug 2024


【3期生 管理栄養士より】

 急性期病院管理栄養士として摂食嚥下リハビリテーションに関わる中で「患者さんに充実した栄養管理を実施して在宅まで繋げたい」という思いから、地域の病院管理栄養士間で研究会を立ち上げ、摂食嚥下と嚥下調整食や栄養管理について学び、嚥下調整食マップの作成をおこなってきました。

 施設や地域にも連携を広げ行政にも協力を得たいなど理想はあっても思うような活動はできていず、部門内の業務改善や人材育成、人事考課制度導入など問題が山積みで困惑していたところ、日本摂食嚥下リハビリテーション学会のホームページで、「多職種連携を実践する人材育成モデル構築事業-チーム医療実践リーダー育成研修」を知り、応募しました。

 当時は日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士取得をしていることが受講の条件でした。わたしは嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士(公益社団法人日本栄養士会と一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会とが認定する共同認定制度)認定のために、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士を取得しており、認定を受けておいてよかった!と思ったものでした(現在の患者中心のチーム医療を目指すリーダー育成研修はどなたでもお申し込みができます)。

 第3期の研修はコロナ禍でweb開催となりました。webだからこそ、地方在住でも年間通じ参加することができたと思います。ピンチはチャンスです。

 コーチングの目的は、相手の自発的な気づきや行動を促して目標達成を支援すること。研修では、ペーシング、傾聴、承認、フィードバック、質問のスキルなどについて講義だけではなく、グループでお互いにコーチングセッションを体験しながら学びました。

 ビクティムになった場合は受け入れ、思い切り不遇な自分を表出することでそこから抜け出す。アカウンタビリティを引き出すコーチングの練習セッションなどを通じて、職種は違っても抱えている問題には共通点も多く、患者さんに良い医療を提供したい目的が同じ仲間の存在は心強く、共感できることがたくさんあり、受講の度ごとに充実感がありました。

 コーチはレセプターを立てて、相手の話を遮らないで聴くこと。相手が沈黙したら待つこと、沈黙は思考を巡らせ言語化する過程であり必要な時間なのだとしだいに理解できました。

 プロコーチとのセッションでは、投げかけられた質問に迷いながらも答えていくうちに、本当に成し遂げたい目的は何か?ゴールに向けた具体的な方法は?必要なものと必要でないものは?いつからはじめるか?自分の考えが整理されていく事を体験しました。

 コーチングのこの研修で学んだことは、言語化することの大切さと対話力を身につけなければいけないということでした。

対話をするためには傾聴•承認•質問などのコーチングスキルを学ぶだけでなく、人間力を磨いて自分自身のこころのあり方を整える必要があると気がつきました。

 わたしが自分らしく生きることも大切で、それではじめて誰かの自分らしさを支えられるのかもしれない。そんなふうに考えることができました。

 ペイシェントジャーニーマップの作成を通じて患者経験価値(Patient Experience)を学んことは大きく、クライアントが職場スタッフであっても患者さんであっても、相手を尊重し望むゴールへ導くことができるように、こころの余裕を持っていたいと思います。

 第3期生で受講した経験価値は、深く大きく大切なものとなりました。

 みなさんの患者中心性医療の実現に向けた取り組みや、真摯な患者さんへの対応に感激し、今でもわたしのモチベーションとなっています。

 サポートメンバーとして参加し元気をもらっていることは、うれしい予想外価値です。

Updated on 26th Mar 2024


【4期生 言語聴覚士より】

ちょっと食欲がない、経管栄養から脱却したい、この子に少しでも食べる楽しみを教えてあげたい、最期は好きなものを気兼ねなく食べたい、

地域の訪問看護ステーションに従事していると摂食嚥下に関する様々な悩みを伺っておりました。この問題を解決するには、個々に熱意のある人間が燃え尽きるまで頑張り続けるようなことがあってはならないなと、考えておりました。

そんな折、本プログラム(当時は「チーム医療実践リーダー育成研修」という名称でした)のことを知り、またとないチャンスと考え受講に至った次第でした。

長期にわたる研修、ホームワーク、その上プロコーチによるコーチングまで受けるという圧倒的な情報量に受講前は尻込みしていましたが、実際講習を受けてからはその考えは180度変わりました。

サポートメンバー(卒業生)や講師陣によるコーチングのデモや、テーマごとに行われるグループワークでコーチングの練習を繰り返し実施した後に、患者経験価値(PX)の講義を受けた時は「今までの数ヶ月間の努力は全てここに繋がるものだったのだな、なんと奥の深いものか」と圧巻したことを鮮烈に記憶しております。非常に充実した濃密な時間を過ごせたことは、私の経験価値として今でも強く根付いております。

このプログラムで習得したことは患者様、利用者様の満足度向上は勿論のこと、職場の人間関係向上や大切なチームメンバーの未来のためにも活用できます。一方的な命令を押し付けるのではなくその人の大切なものを尊重する術は、私自身を変えることにもつながりました。

この研修会の良いところはプログラム内容やスキル習得面だけにとどまりません。「患者様をどうにかして差し上げたい、何かもっとできることはないか」という思いを持った様々な職種の方が全国から集まるということは想像以上の力があります。他者を尊重し合い、現状の課題を共有できる同志ができるのはこの研修会の大きな財産だと考えております。事実、まだまだ学びたい、高めあいたいとサポートメンバーになってまた研修に参加したいという声が後を断ちません。

このような体験を、是非一緒にしてみませんか。お待ちしております。

Updated on 23rd Mar 2024


【3期生 管理栄養士より】

 私は、優しく頑張り屋の両親の元で「他人に迷惑をかけないように、自分でする」、「弱音は吐かずに、なるべく笑顔で対応する」、「人との調和を重んじる」、「相手の立場に立って考える」、「誠実に向き合うため、自己研鑽をつむ」、幼い頃から自然とこのような価値観のなかで育ってきました。仕事に就いてからは、様々な資格を取得したり、学会発表、学生への講義もこなし、プライベートでは結婚・3人の育児・要介護5の義母の自宅介護など、忙しいですが、楽しく充実した日々を送っていました。それがなんと長男が中学の夏休みの夜「あれ?息がしにくい・・」と意識しだすとあれよあれよと救急車で運ばれることとなりました。今思い返すと、自分の価値観のなかに気づいていなかった「何か」が、自身を苦しめ、悲鳴を上げていたのだと思います。

 そんな私は、摂食嚥下リハビリテーションのチーム医療の場面でも、他のスタッフにも積極的に関わってほしいという動機から、この研修会に応募しました。

 プロコーチとのセッション では「それはどうしてですか?」、「相手にとってどんな価値があるんでしょうか?」「本当に迷惑なことですか?」と質問されて、初めて考え、気づいたことを言語化し、対話することを積み重ねました。そして「そうか。委任することで相手も成長できるし、応援することで互いの信頼関係も深くなる」と考えるようになりました。

特に『承認』のスキルを意識し、相手のことを肯定的に捉え「○○さんありがとうございます。とっても助かります。」とこまめに感謝の想いを伝えると、互いに心理的安全性が高まる効果を実感しました。

また『タイプ分け』では、まず参加者自ら簡単な質問で4つにタイプ分けをします。そして、それぞれの特性を理解したうえで相手の価値観を共有しました。すると、自分にとっての当たり前が、相手にとっての当たり前ではないことに、びっくりすると同時に「なんだ!!こんなにちがうのか!!」と気づけた幸せに、思わず笑いがこみ上げてきました。以前は私と価値観が大きく違う方ほど、理解しがたく、敬遠しがちで、それは私にとって多職種協働を妨げる大きな要因となっていたと思います。今では,相手のタイプや価値観の違いは、自分の弱みを補完してくれる強み(存在)だと捉えると、苦難を共に乗り越える仲間だと気付くことができました。いつもうまくいくとは限りませんが、それもまた貴重な経験だったと『笑える』 ことができます。当初の私は他のスタッフを変革しようと意気込んでいましたが、コーチングを通して自分自身を知り、自分の捉え方が変革した研修会となりました。

現在は「他人と一緒にやろうとする」、「笑顔ではいるけど、弱音を吐く」、「この場面での『調和とは何か』を共に考える」、「相手と自分の立場にも立ってみる」、「誠実に向き合うために、違いを楽しみ、共に研鑽をつめるように安心の風土を醸成する」という姿勢となりました。そうしたら私は随分と肩の力が抜けて、仲間を信じて「臨床倫理」「意思決定支援」など、今まで以上に様々なことに取り組んでいます。

そのような経験を重ねるうちに私自身「目に見える表層的なものに囚われず、広く・深く対話を重ね、学び合い、柔軟でしなやかにワクワクと共に悦びあう人生を歩みたい」と思うようになりました。摂食嚥下リハビリテーションは医療者一人では完結しません。清々しいチーム医療は「患者さんの誤嚥を予防する」だけでなく「患者さんを通して多くのご縁を紡ぎ、共に育み、癒される」そんな効果もあるのではないかと思います。

私にとってこの研修会は『ご縁』『違い』をポップに楽しめる絶好の機会でした。感謝感謝ふふふっ

Updated on 16th Mar 2024


【1期生 歯科衛生士より】

 2017年にふと日本摂食嚥下リハビリテーション学会のホームページの片隅に、ちいさなバナーを見つけたのが最初でした。「多職種連携」「チーム医療」「実践リーダー育成」このフレーズに目を引かれました。当時の私は複数の病院、老人保健施設や歯科を持つ法人のセンター歯科として存在する歯科診療所の主任として歯科衛生士集団をまとめて主体的に活躍できる人材を育成する立場として関わり始めていた時期でした。しかし、当時の実態は主体性も活気も発言も少ない歯科衛生士部会や院内会議、常に経営ありきの職場風土で職員は疲弊していて新しい発想や提案などが出てくる雰囲気はありません。

 そんなときでした。この研修を受けない手はない、わらをもすがる思いで申し込みをし、悩みながらも研修を受け続けることとなりました。参加している大勢のメンバーは様々な職種で職場環境も年齢層も違う、全く初めてお会いする方がほとんどでしたが、レクチャーに沿って自分の職場での悩みや自分がなにをしたいと考えているかをお互いが『対話』してゆく中で、「私の話を聴いてくれている」という安心感を得ることができ様々なことが整理されつつも、今自分がしていることはどうなのか、どうするとうまくゆきそうか、本当はどうしたいんだろうというようなことを毎回頭の中をぐるぐるまわったまま終了してゆく、そんな感覚だったことを思い出します。

 医療現場におけるコーチングの実践とその指標となるPatient-Experienceを学びながら手探りで職場の雰囲気を改善すべく動き出した矢先のこと、目的を完遂することなく法人内の急性期病院に新設される歯科への異動が出ました。前事業所で未達成になってしまった後悔もあり新たな職場では、研修受講の経験を活かしここで学んだコーチングスキルを応用しました。そうして、いくつかの事例を経験することができました。

 自部門の新入職員となった同僚にコーチングを活用したことで仕事上の悩みや家庭における不安に対し、明るく先を見通せる環境になれたと喜ばれました。また、病棟での口腔ケアチーム活動に携わる看護師に、当初はあまり、興味のなかった口腔であったにもかかわらず、コーチングを実践すると相互に様々な気づきを得ることができ、口腔粘膜ケアと認知症の関係について研究をしようと思う、などと良いフィードバックを得ることができました。何より自らがコーチングを行うことで得られる、自分を俯瞰している感覚、まさにステークホルダーと一緒に一つの景色を見て応援している自分を感じ取れた瞬間は今でも忘れられません。

 コーチングマインドには「常に対等な立場で」「コーチが自然体でいて」「相手をコントロールせず主体は相手にある」「あなたは特別な存在であるというメッセージを送り続ける」という基礎があります。相手の成功を願いながら、現在進行形で向き合っていく、このマインドが医療の現場に広がることで多職種がお互いに相手の職種をリスペクトすることができると私は思っています。 現在は全事業所の主任歯科衛生士たちと一緒に法人全体の歯科衛生士集団に対してコーチング研修会を開催しています。そこでは自分自身と対話し、自分らしさを大切にした働き方を考えていくことで、歯科衛生士たちの仕事に対する主体性や自分事として参加する意欲を上げることに繋がり、少しずつ前に進んでいると感じています。 職場環境の改善場面にコーチングを取り入れることは、働き手の自己肯定感に繋がり、患者様に対しても院内や地域の医療の現場に対しても健やかな連携をとることができるようになり、また実践することで自分自身の成長ともなることと実感しています。

Updated on 10th Mar 2024


【1期生 言語聴覚士より】

 私が本研修に出会ったのは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会のホームページで、「多職種連携を実践する人材育成モデル構築事業」第1期生の募集でした。当時、当院では摂食嚥下チームは存在せず、言語聴覚士が評価から摂食嚥下リハビリテーションを実質的には一任されて進めていくという流れで、とてもチーム医療や多職種連携と言える形ではありませんでした。そこで「多職種連携」「リーダー育成」というキーワードに強く魅かれ、研修を受けることにしました。私たち1期生は、コロナ禍の前(2017〜2018年)であり、毎月東京での対面式集合研修でしたので、毎月東京へ行けるという楽しみも正直な応募のきっかけでありました。

 「多職種連携を実践する人材育成研修」ということで、「リーダーとは」「チームをまとめる」といった内容の講義を予想し、第1回目に臨みました。しかし、研修が始まって一転、「コーチング」という、当時の私には全くなじみのない言葉と実践、グループワークでのディスカッションが中心の研修で、予想外の内容に感動し、気持ちが高ぶったまま新幹線で帰路に向かったことを今でも強く覚えています。また、参加者は医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、リハビリセラピストと多職種であり、ディスカッションの中で、連携の難しさやチーム(組織)の難しさなど、参加者の皆さんが所属先で抱える問題に共感し合い、さらに、わからないながらもお互いにコーチングを実践することで、明日からの具体的行動に気づくことができるという、今まで経験のない研修でした。

研修の回を重ねるごとに学ぶコーチングスキルは、実践の積み重ねにより自分のものとなり、臨床現場ではスタッフ、患者さんに対してコーチングスキルを取り入れることが出来ました。

 これは、そんな時に出会った患者さんとのエピソードです。患者さんは咽頭がん術後嚥下障害により、「食べたい」意思があるにもかかわらず、医療の視点からは禁食を強いられていました。そのため患者さんは医療機関との信頼関係を構築できず、様々な病院を受診し、そのたびに禁食を強いられたままという状況で当院を受診されました。初診時には今までの医療機関に対する不信感からか医療者に対して攻撃的な言動が見られましたが、私が研修で学んできたコーチングを対患者さん、対スタッフに対して行いながら摂食嚥下リハビリテーションを行った結果、チーム医療と患者中心性を実現した医療、患者さんとの信頼関係が成立した症例として、たいへん貴重な経験となりました。

 患者さんが「自分らしく生きる」ために、医療従事者がそれぞれの専門性と職員それぞれの「自分らしさ」を活かし連携できることが『コーチング』の最も重要なポイントのひとつです。本研修での学びは、単に知識を得るだけではなく、患者さん、スタッフとの『対話』を行うという自分自身の意識と行動に変化をもたらしました。それにより、患者さんを中心としたチームメンバーが集まり,増えて,そしてチームへとなる組織に進化することができました。

1期の研修終了後も研修は継続され、2期(2019年)以降もサポートメンバーとして研修に関わらせていただいています。参加される方との出会い、新しい発見、更なるスキルアップ、そして何より皆さんとの繋がりが継続し、すばらしい仲間になれていることが、私にとって一番の予想外価値となっています。

Updated on 6th Mar 2024